二千円紙幣 書道の「文字文化」

 2000円札は第26回主要国首脳会議(沖縄サミット)と西暦2000年(ミレニアム)をきっかけとして、1999年(平成11年)に当時の小渕恵三内閣総理大臣の発案で、2000年(平成12年)7月19日に森内閣の元で発行されました。

 お札には書道で学ぶ「篆書・隷書」がよく使われており、さらに二千円札には平安時代の源氏物語が描かれています。


 書道の授業では「書体の変遷」を学ぶ際に、紙幣に書かれた文字の書体の例示として、この画像を提示しています。


 二千円紙幣に見る書道の「文字文化」について紹介します。




1 表面:沖縄の守礼門

   二千円券が発行された2000年には、九州・沖縄サミットが開催されることとなっていたことから、その図柄には沖縄のものがふさわしいと考え、沖縄の建造物の中から、戦前には国宝に指定されていた文化財である守礼門を採用したものです。紙幣右側に描かれている門は、首里城の「守礼の門」で、琉球国 尚清王(在位1527~55年)の時代に創建されました。

「守礼の門」は、「透かし」の中にも使われています。また、表面の印刷された「守礼門」と「透かし」の「守礼門」はそれぞれ別の角度からみた図柄になっています。

 





2 裏面:「源氏物語絵巻」と「紫式部日記絵巻」


 左側に、「源氏物語絵巻」第三十八帖(じょう)「鈴虫」その二の絵の一部分に、同帖の詞書(ことばがき)の冒頭部分を重ね合わせたものを配し、右側に、源氏物語の作者である紫式部の絵が配されています。


 「紫式部日記絵巻」の一場面(「紫式部の局(つぼね)を訪(と)う斉信(なりのぶ)と実成(さねしげ)」)の絵(国宝、五島美術館所蔵)に描かれている紫式部です。


 源氏物語が、今からおよそ千年前の平安時代中期、紫式部により書かれた、我が国が世界に誇るべき文学作品であることから、採用したものです。


 左側には「源氏物語絵巻」の「鈴虫」の絵と詞書を重ねたものが、右側には「紫式部日記絵巻」の紫式部の絵を素材としています。


 なお、「鈴虫」の詞書については、絵の場面とは異なりますが、「鈴虫」の冒頭にあたり、「すずむし」の文字がみられ、また、文字の美しさという点で評価が高いことなどから採用したものです。


「源氏物語絵巻」の「鈴虫」の絵と詞書及び「紫式部日記絵巻」に描かれている紫式部の絵は、いずれも東京都世田谷区の五島美術館が所蔵しています。


二千円札の裏の歌は全文が載っているわけではなく、上部を切り取ったような形で印刷されています。

 絵は「源氏物語絵巻」第38帖「鈴虫」,歌は同じく第38帖「鈴虫」の詞書(ことばがき)となっています。




「源氏物語絵巻}第三十八帖「鈴虫」詞書(国宝、五島美術館所蔵)

  

すヽむし

十五夜のゆふくれに仏のおまへ

に宮おはしてはしちかくなかめ

たまひつヽ念珠したまふわかき

あまきみたち二三人はなたてま

つるとてならすあかつきのおとみつ

のけはひなときこゆさまかはりたる

いとなみにいそきあへるいとあわれな

るにれいのわたりたまひてむしのね

○現代語訳(谷崎潤一郎「新々訳 源氏物語」第七(中央公論社)より)

十五夜の月がまだ影を隠している夕暮に、佛のお前にお宮がおいでになりまして、端近

くお眺めになりながら念誦(ねんじゅ)していらっしゃいます。若い尼たちが二三人、花を奉

ろうとして閼伽坏(あかつき)の音や水の音などをさせて、世間離れのした仕事を忙しそう

にしていますのも、たいそう哀れなのですが、例のお越しになりまして、「虫の音がしげく

鳴きみだれる夕ぐれですね」と、・・・




3. お札の印





( 二千円札 情報 )


○守礼門

・首里城第二の坊門(ぼうもん)。創建は、琉球国尚清(しょうせい)王(在位1527~55年)の時代。

・昭和8年に国宝に指定されたが、昭和20年の沖縄戦で焼失(四度目の焼失)。

・昭和33年に復元。


○源氏物語

・平安時代中期(11世紀初め頃)、紫式部の作。全54帖(じょう)。


○源氏物語絵巻

・源氏物語の各帖から一部を選び、物語本文をもとに作成した「詞(ことば)」と「絵」を交互に繰り返す形式の絵巻。

・現存の作例として最も古く芸術的に重要なものは、平安時代後期(12世紀)のものであり、現存の絵19面及び詞37面が国宝に指定されている。


○源氏物語絵巻第三十八帖「鈴虫」その二の絵(国宝、五島美術館所蔵、作者不詳)

・左側 冷泉院(れいぜいいん) 右側 光源氏


○紫式部

・平安時代中期の物語作家、歌人。

・出生は、970~973年あたりと推定される。没年は不詳。

・父は、藤原為時(ためとき)、母は、藤原為信(ためのぶ)の娘。


○紫式部日記

・平安時代中期(11世紀初め頃)、紫式部の作。


○紫式部日記絵巻

・鎌倉時代前期(13世紀の作)、作者不詳。

・「紫式部日記」を絵巻にしたものであり、もとは全10巻程度の巻物。現在、25場面(詞書23段、絵24段)が現存する。

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