書写書道curriculum
seitokuの書写書道教育について、本校の書写書道教育の目標、curriculumマップ、書写書道教育の探求の学びの構造、書写書道の学ぶ意欲の形成プロセスについて、お知らせいたします。
【 Ⅰ 聖徳大学附属女子中学校高等学校の書写書道学習について】
S 探求コース・LA コースでは「自国の伝統文化としての文字文化の学び」を中 高6カ年の聖徳オリジナルの書写書道教育プログラムを実践します。
学習内容については中学1年生・2年生で「伝統的文字文化(言語文化)の学びとし ての生活に活かす書写技能・知識の基本の徹底」を、中学3年〜高校3年生までは「書文化・芸術科書道として書道芸術の表現活動や言語活動としての書の創作表現」を中心 に学びます。
在学中毎週必修で学ぶ書写書道では、「自国の文字文化を次世代へ継承できる美しい 手書き文字の担い手の育成」を目標に、毛筆の学習では漢字のすべての書体(楷書・行書・草書・隷書・篆書)の基本用筆と書道史を学び、さらに中学 2 年からは継続して平安 時代の仮名の名筆(=古筆)の臨書を行います。また硬筆では「文字を正しく整えて速 く書くことができ、その書写の力を学習や生活に役立てる」ことを目標に卒業迄に文部 科学省認定書写技能検定試験3級以上の取得を目指します。
本校の S 探求コースと LA コースにおける6カ年の書写書道の学びのねらいは、『我 が国の将来の知的基盤社会における生涯学習の重要な観点である「生きる力」の定着の ための、文化芸術の深い素養と教養と専門技能を有する「知的体力」を養うため』とし、 自国文化を自信を持って諸外国に発信できるアイデンティティー【identity】確立のた めの重要な学びと位置づけています。
将来の国際交流の場面での自国の文化を語ること のできる人材育成に向けては、中高時代の継続した芸術科目の学びのプログラムが必須 であると強く考えています。
指導は3名の書写書道の専門の先生方により実施し、書写の基本技能や文房四宝(筆 墨硯紙)の正しい扱い方・漢字の五つの書体の名筆臨書・仮名の名筆臨書を6年間で21 0時間の授業を行います。
6 年間のシラバスでは「表現活動(理論と表現)」を A 書写 技能の向上、B 書道芸術表現の学び、C 伝統文化の学び、D 言語活動としての活動に分 類し、また「鑑賞活動」では E 名筆の鑑賞や他者の表現活動の尊重を柱に「博物館・美 術館鑑賞活動」や特別講座「博物館学校連携授業=博学連携授業」を実施していきます。
指導計画における単元は新学習指導要領に準じた科目単元とし、高等学校における芸 術科書道の取得単位数は3とします。
さらに高校3年生で開講する書道系大学や文字文化を専門に研究する大学および将 来の高等学校国語科教諭などを志望する生徒に対しては受験対策ゼミにおいて、将来幼 児教育者及び小中高等学校の先生志願者向けの「教育志願者書道講座」(希望制52時 間予定)、将来の「書道科設置大学受験対策・文字文化探求演習」(希望者62時間開講 予定)について開講し、受講に関する S 探求コースの受講規定・受講資格は高2の段階 で説明を行います。
また6年間の書写書道の授業で制作した作品の中で、「漢字の書」「仮名の書」の作品 は、全国規模の書道展に出品していきます。
S 探求コース・LA コースの学習単元名称について 指導単元名称は以下の13領域としシラバスで周知し、セミ反転授業を中心とした学習内容を実施します。
学習単元
(1)漢字の書(楷書 行書 草書 隷書 篆書)
(2)仮名の書(平安時代の名筆)
(3)漢字仮名交じりの書
(4)実用の書
(5)応用の書
(6)硬筆
(7)書道史
(8)書道概論・書道文化史(自国の伝統文化の理解と発信)
(9)篆刻・刻字
(10)レターデザイン
(11)文字環境表現
(12)鑑賞研究(博物館・学校連携含む)
(13)作品装丁・伝統工芸(和紙を含む)
中学校における書写の学習時間
中学1年 32時間
中学2年 32時間
中学3年 32時間
高等学校における芸術科書道取得の単位数と学習時間
高校1年 書道I 1 単位 32時間
高校2年 書道I 1単位 32時間
高校3年 書道Ⅱ 1単位 32時間
【 Ⅱ seitoku 書写書道curriculumマップ 】
【 Ⅲ 書写書道教育の探求の学び ー 学習形態と学習構造 ー 】
【 Ⅳ 書写書道の探求型課題解決学習(学習の循環) 】
【 Ⅴ 高等学校芸術科書道の学びにおける「学ぶ意欲の形成プロセス」について】
【 Ⅵ 新学習指導要領への対応 】
新学習指導要領の芸術科書道改訂の要点について
1 はじめに
平成30年3月に「高等学校学習指導要領」が改訂・告示され、同7月には文部科学省HPに「高等学校学習指導要領解説・芸術(音楽・美術・工芸・書道)編・音楽編・美術編」(以下、「解説」という)が公表されました。これにより、書写・書道教育の全体像が明確になりました。
平成28年12月21日に中央教育審議会によって示された「幼稚園、小中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について」(以下、「答申」という)、「芸術ワーキンググループにおける審議の取りまとめ」(報告)、文部科学省HPに公表された「解説」を踏まえ、「芸術科書道」の改訂の経緯と要点を整理します。
2 これまでの改訂の状況と実施上の課題
学習指導要領は、概ね10年に一度改訂されます。
国語科書写は、昭和43年の改訂において、毛筆が必修化され、やがて〔言語事項〕という技能特化の傾向を強めていきました。そして、平成20年の改訂で「伝統的な言語文化と国語の特質に関する」事項へ、今回の改訂では「我が国の言語文化に関する事項」へと整理されました。ここ20年は、「文字文化」として視座が回復し、「手書き」を「文化」と捉える方向性となっています。
また、今回は、小学校の低学年に「適切に運筆する能力の向上」を図ることを「内容の取り扱い」において明確化され、その「解説」に「水書用筆等を用いた運筆指導」が示されました。
さらに、中学校の第3学年の「身の回りの多様な表現」「文字文化」、高等学校の国語科の「現代の国語」「言語文化」に、小・中学校段階での学習を深める内容が明記されたことは、特記しておきたいところです。
また、高等学校「芸術科書道」は、平成元年の改訂で、「A表現」に「(3)漢字仮名交じりの書」が一分野として新設され、平成11年度の改訂では、当時の学習内容の厳選という方向性を受け、特に「書道Ⅰ」においては、「漢字の書」「仮名の書」は選択となる一方、「漢字仮名交じりの書」は(1)として必修化されました。
平成21年の改訂では「A表現」の三分野が必修となり、今回の改訂でもそれが踏襲されています。また、近年「生涯にわたり書を愛好する心情を育てる」観点から、鑑賞学習の充実が図られてきました。
平成21年の改訂では、「書道Ⅰ」において、①「A表現」の3分野必修、②立体(篆刻・刻字等)への視点の重視、③書体の扱いの拡充、④鑑賞学習の重視、が示され指導内容が大きく広がりました。一方、学習内容の深化について、課題が指摘されてきました。「答申」には、書道教育の課題が以下のように指摘されています。
・・・・一方で、書の伝統と文化を踏まえながら、生徒が感性を働かせて、表現と鑑賞の相互関連を図りながら能動的に学習を深めていくことや、書への永続的な愛好心を育むこと等については、更なる充実が求められるところである。
表現と鑑賞の有機的な関連を図りながら、表現領域では、作品を豊かに構想し、表現を工夫していく制作過程に視点を置いた主体的活動や、鑑賞領域では、言語活動の充実を図りながら、作品を味わって深く捉えることで学習の深化を図ることに課題があることを指摘している。また、生涯にわたる書への永続的な愛好心の育成の一掃の充実を求めている。・・・
3 学習指導要領改訂の方向性
今回の改訂に当たっては、「答申」では以下のような方向性が示されました。
① 何ができるようになるのか。― 新しい時代に必要となる資質・能力の育成。
② 何を学ぶのか ― 教科・科目等の新設や目標・内容等の見直し(学習内容の削減は行わない)
③ どのように学ぶかー 主体的・対話的で深い学び(アクテイブ・ラーニングの視点からの学習過程の改善)
各教科等で育成を目指す資質・能力は(別図1)に示した3つの柱で整理されました。思考・判断しながら知識・技能を身に付けるなど、3つの柱が一体となって働くことが示されています。各教科等を通して「何ができるようになるのか」という視点に立ち、「目標」はこの3つの柱で分けて示し、各教科等の「指導事項」は、「思考力・判断力・表現力等」「知識及び技能」で整理し、「学びに向かう力、人間性等」は、一定の期間を通して育成される資質・能力であるという観点から、「目標」にまとめて示すこととされました。
4 「芸術科書道」の改訂の要点
(1) 目標の改善について
目標については、以下に示した3つの柱で整理され、(1)「知識及び技能」(2)「思考力・判断力・表現力等」、(3)「学びに向かう力、人間性」で示されました。
その内容は、「書道Ⅰ」では「生活や社会の中の文字や書、書の伝統と文化と幅広く関わる資質・能力」、「書道Ⅱ」では「生活や社会の中の文字や書、書の伝統と文化に深く関わる資質・能力」、「書道Ⅲ」では「生活や社会の中の多様な文字や書、書の伝統と文化と深く関わる資質・能力」を育成するとして、段階的に示されています。
この3つは、相互に関連し合いながら一体となって働く資質・能力であり、順序性をもって育成されるものでない点に留意する必要があります。
(2) 内容構成の改善 ― 〔共通事項〕の新設
指導内容については、従前の「A表現」、「B鑑賞」に、両領域に共通で必要となる資質・能力として〔共通事項〕を新たに加えて構成されています。
従前は、各領域・分野における指導事項については、指導する内容として一体的に示していましたが、今回の改訂では、
「A表現力」では、
ア「思考力・判断力・表現力等」(構想し工夫する)
イ「知識」(理解する)
ウ「技能」(身につける)
「B鑑賞」では、
ア「思考力・判断力・表現力等」(味わって捉える)
イ「知識」(理解する)
に分けて示されました。
〔共通事項〕は、表現及び鑑賞の過程で常に意識され、その活動を通して一体的に育成される資質・能力です。
アは、書は言葉を書き記す芸術ですから、言葉による①「時間性」を特質として持ち、身体の動きや用筆・運筆による遅速、緩急などの「運動性」の視覚化として捉えられます。
また、芸術としての書は、豊かに伝えるということが意識され、その特性が②「表現性」です。
イは、「線質」、「字形」、「構成」などの表現性を生み出す具体的な「書の構成要素」、また、書の作品は空間に存在し、造形芸術として捉える「造形性と空間性」の視点が示されています。これらは書の美や価値、歴史や伝統を形作ってきた書の特質であり、「文字文化」、書の「芸術文化」を支える基盤です。
(3) 指導事項の改善の要点
A表現
(1) 漢字仮名交じりの書
中学校国語科「書写」からの円滑な接続を図る基本的な分野であるという考え方を踏襲するとともに、高等学校国語科に「必修科目として位置付けられた「現代の国語」、「言語文化」との関連を図りながら、生活や社会において有効に役立つ資質・能力を育み、「文字文化」への理解を深めることが示されました。
また、従前は、作品の表現の深まりを図る観点から「名筆を生かした表現」を位置付け、書の伝統と文化を踏まえた表現の深化を図ることとしていましたが、今回の改訂では、「書は言葉を書く表現」という視点に立ち、「現代」という視点が新たに位置付けられています。
書の表現方法は広がりを見せており、「漢字の書」「仮名の書」として括り切れない表現についても、包括的に捉えることが示されました。
B 鑑賞
生徒を取り巻く生活や社会、諸文化との関わりの視点から、作品や書の良さや美しさ、書の価値などについて、根拠をもって「考える」ことが重視されています。。
ア「思考力、判断力、表現力等」に関する資質・能力として、「作品の価値とその根拠」を考え、鑑賞することを新設し、またイ「知識」に関する資質・能力として、ア「線質、字形、構成等の表現効果と風趣との関わり」が示されました。「風趣」とは、力強さや穏やかさ、爽やかさや静けさなどの直感的な印象や、作品全体から滲み出る風韻や風格などがあげられます。
さらに、エ「書の伝統的な鑑賞の方法や形態」を新設し、鑑賞の場や表装の形式について取り上げ、理解を深めて行くことが明確化されています。
また、「内容の取り扱い」において、「漢字仮名交じり文の成立」について取り扱い、我が国の文字文化への理解を深める活動を、「B鑑賞」で扱うことを示したことも特記したいところです。
5 授業改善の視点
書の幅広く創造的な活動を通して、生活や社会の書と豊かに関わる資質・能力を育むことがより求められている。そのためには、書道を通して育成を目指す資質・能力という視点に立ち、主体的・対話的で深い学びの観点から、不断の授業改善を図ることが重要である。また、国語科等の他の教科等で育成される資質・能力との関係を整理し、教科横断的な視点をもって、指導計画を作成していくことがより求められています。
【 Ⅶ 本校の書写書道ルーブリック(単元ルーブリック)について 】
ルーブリックとは、学習の達成度を表を用いて測定する評価方法のことです。これまで、学習を評価する方法としては、ペーパーテストが一般的でした。
ルーブリックとは、学習の達成度を測るための評価方法の一種です。ルーブリックについて見ていくにあたって、まずは概要として「注目されている理由」「特徴」について述べていきます。
(1)ルーブリックが注目されている理由
ルーブリックが注目されるようになった理由の中で最も大きな要因は、「アクティブラーニング」の重要性が日本で認識されたことです。アクティブラーニングとは、学習者が主体となって能動的に学習することで、アクティブラーニングに該当する学習方法としては「ディスカッション」「体験・実演」「他者に教える」などがあり、これらを行うことで学習の定着率が一層高まるとされています。
2010年以降、日本でもこのアクティブラーニングが注目され始め、多くの学校で導入されていきました。しかし、導入するにあたって問題となったのが、アクティブラーニングの学習を評価する方法です。それまで一般的な評価方法だったテストでは、アクティブラーニングの学習を適切に評価できず、テストに代わる新たな評価方法が必要でした。そこで注目されたのが『ルーブリック』です。
ルーブリックの特徴は、ディスカッションやグループワークなどで学習する「技能」「表現力」「思考力」「判断力」といった実演でのパフォーマンスや、「興味・関心」「意欲」「態度」といった課題への取り組み姿勢を明確に評価できるという点にあります。ルーブリックは、テスト形式での方法では評価が難しい観点を適切に評価することができます。さらに、ルーブリックは評価する対象や内容に合わせて、評価基準と評価の項目数を調整することができるため、様々な学習の場に適した評価基準を設定することができます。
ルーブリックでは、複数の評価項目から構成されるのが一般的であり、それらの評価項目を一覧にまとめたものを「ルーブリック表」と呼びます。
(2)ルーブリック表の作り方
下記の表がルーブリック表です。
まず、左端の列に記入されているA~Cが『評価項目』です。この項目は評価する対象によって内容と数を適宜設定していきます。例えば、ディスカッションを評価する場合の評価項目としては、「傾聴力」「意欲」「リーダーシップ」「トークスキル」「理解力」と言ったものが挙げられます。
つぎに、一番上の列に並んでいる1~4の数字が『評価点』です。これも5段階評価であれば1~5、4段階評価であれば1~4といったように、評価段階に合わせて調整可能です。
そして、『評価項目』と『評価点』が交差するマスに、『評価基準』を記載します。評価基準を設定する上でのポイントは、なるべく行動ベースで記載することです。ルーブリックで評価するのは、「ディスカッション」や「実演」といったものがメインとなるため、その中でどのような行動が求められているのかを評価基準として設定するとより明確な評価が可能になります。
ルーブリックだけに関わらず、評価規準というのは評価を受ける人には教えないものだと考えている方が多いと思います。
しかしルーブリックに関して言うと、学習者にその評価基準を教えることで、様々なメリットを得ることができます。
例えば、学習者が評価規準を知った上で学習する場合、学習の中で「今自分がどの項目をどれくらいできているのか?」という自己評価を実施しやすくなります。このような自己評価をすることで、内省の習慣を身に付ける、メタ認知力を高める機会を作ることができます。また、評価規準を通して良いパフォーマンスとは何かが明確になれば、学習意欲と学習速度の向上も見込めます。
ルーブリックの特徴として、評価項目と評価規準を調整できるというものがありますが、学習者の意見をルーブリックの作成に取り入れることで、より学習者の主体性と意欲を引き出す教育の設計が可能になります。
特に中学校や高等学校での教育では、学習する生徒がそれぞれに目的を持って参加している場合が多くなります。
そう言った場合に、学習の目的に関して教育を実施する側と学習する側の間にずれがあると、授業を実施する先生の側には「学習者が付いてこない」、学習者としての生徒側には「内容が思っていたのと違う」といった問題が発生しやすくなります。
ですので、学習者の意見を取り入れて評価規準を設定し、それに沿って学習手順を設計することで、より学習者のニーズをとらえた授業を実施することができます。
目的を持って参加している生徒は、ニーズが満たされると分かれば主体的に参加する傾向があるため、学習者と教育者の熱量のギャップも生まれにくくなります。
本校では評価研究委員会が設けられ、すべての教科でルーブリックの活用研究が進んでいます。
書写書道では、各学習単元ごとに、以下のようなシートを提示し、学習段階ごとにルーブリックシートに沿って自分自身の学びの到達度を確認しながら、自己評価を重ねていきます。
単元のまとめ学習では、さらにルーブリックの表現の基本技能と段階ごとの自己評価のA/B/Cを自身で記入し、単元の目標への到達度が明確になってきます。
このシートの活用によって、「漢字の書の書風を生かした表現」や「仮名の書の古典の書風を生かした表現」、「漢字仮名交じりの書の表現」に学んだ書風を生かし、主体的で対話的な学習がが展開されていきます。
単元のまとめ学習では、さらにルーブリックの表現の基本技能と段階ごとの自己評価のA/B/Cを自身で記入し、単元の目標への到達度が明確になってきます。
このシートの活用によって、「漢字の書の書風を生かした表現」や「仮名の書の古典の書風を生かした表現」、「漢字仮名交じりの書の表現」に学んだ書風を生かし、主体的で対話的な学習がが展開されていきます。
このような学びの工夫は、書道部の合宿錬成会の場でもルーブリック手法を用いて対話的な学習を積み上げていく時にも活用しています。